昔からライター志望だった私ではあるが、縁あってもう20年も野球中継に携わらせてもらっている。
野球中継の魅力は、なんといってもアナウンサーの実況だろう。
傍らの解説者は、豊かな経験と深い知識で的確なコメント。
アナウンサーのもう一方の傍らには、映像には映らないがスコアラーが構えていて、瞬時に多くの情報を咀嚼しているアナウンサーを下支え。
あ、このスコアラーが私の仕事です。
放送席に座っているのはこの3人だけど、野球中継には他にも沢山の人が関わっている。
私が長年お世話になっているのはBAN-BANネットワークスという加古川に本社を置くケーブルテレビ局。
1999年から夏の兵庫県大会で東播磨地区2市2町の12校が、地元の高砂市野球場で試合をする際には必ず生中継を行っている。
使用球場が1つだけの他府県では地元のテレビ局が全試合中継していたりするのだが、使用球場が7つも8つもある兵庫県では県予選は県内各地のケーブルテレビ局がそれぞれの地域で活躍している。
今回はBAN-BANネットワークスの25年に渡る野球中継への思いを、高校野球担当ディレクターの清水洋平さん(36)に聞かせていただいた。
BAN-BANネットワークスの最大の特長は、自社の中継車を持っていること。
これはケーブルテレビ局としては全国的にもかなり珍しく、しかも地上デジタル化の際に地デジ対応の中継車を新調しているので現在のものは2代目。
「中継車を持っているのは、中継を始めた当初のスタッフに機械好きな人間が多かったから、というのが理由のようです」と清水さん。
中継車の中にも入らせてもらった。
色んな機械がいっぱいで、飛行機のコックピットみたいですごくかっこよかった。
試合中は球場内に設置された6台のカメラが撮っている映像をここでスイッチしたり、テロップを出したり、フロアにいるディレクターや他のスタッフに指示を送ったりしている。
近年、最も注力しているのはバーチャル高校野球との差別化。
野球ファンの方ならご存知でしょうが、今や高校野球は地方大会から全試合、バーチャルで見られる世の中になっている。
それに関して清水さんは、「やっぱり何よりも実況と解説があることがバーチャル中継との1番の違いですかね。ただ試合が見たいだけなら確かにバーチャルで十分だと思いますが、うちは地域密着のケーブルテレビ。地域の人とふれあって、それをそのまま放送にのせるのはケーブルテレビにしかできないことで、それが僕たちの使命だと思っています。今、打席に立ってるのはどういう子なのか、スタンドにいる保護者の方にコメントをもらったりだとか、バーチャルでは得られないプラスαの情報を多く伝えられるようにしています」
普段はとても穏やかで大らかな清水さんだが、野球中継の話になると、内に秘めた情熱がブワーッと表面化する。
そしてBAN-BANでは、バーチャルとの差別化の大きなポイントである実況と解説にとても力を入れていて、実況アナウンサーの方々も素晴らしい面々の上、なんと解説者にはNHKの甲子園中継と同じように社会人野球の方を招いている。
ケーブルテレビの解説者に甲子園解説者クラスの社会人野球の方が来られているのは本当にすごいことで、私は同じ放送席に横並びで座れることに毎回、何度でも新鮮に感動してしまう。
コロナで甲子園が中止になり、各都道府県の独自大会となった2020年は、高砂球場以外で試合をした地元校も全て追いかけ、たった1台のカメラで撮影したものを後日編集して放送。
実況と解説はなくバーチャル形式だったが、このときは「絶対に放送せなあかん!」という使命感に突き動かされた。
毎年、夏の大会前には12校全てを訪れ、学校紹介VTRも作成している。
その際に、とある学校の監督さんに「清水さんはこの辺の野球のこと何でも知ってるなぁ」と言われたのが「めっちゃうれしかったんです」という清水さん。
実際、清水さんはこの12校のことを本当に何でも知っているし、他のスタッフさんたちも高校野球中継への熱量はとても大きい。
野球中継で1番大変なことは何か聞いてみたら、「事前の準備ですね。意外と試合が始まってからは僕は大変じゃないんです。皆さんがそれぞれの持ち場で動いてくださるので。むしろ僕はそれまでのお膳立てをするのが仕事。各種申請、資料作り、お弁当の手配とか。終わってからは経費の精算などですね」
みんなに頼りにされている清水さんは、誰がどんな無茶ブリをしても「はい、ありますよー!」「はい、わかりますよー!」と二つ返事で答えてくれるから益々頼りにされるタイプ。
「ちょっとそれはわからないですーってなるのが嫌なんで、色々想定して準備しています。用意する資料の数が多すぎて、いつも大きいバッグの中に資料がパンパンに入ってるんですよ(笑)」
BAN-BANネットワークスにとって、高校野球中継は年間を通して1番の一大イベント。
テレビ制作課の社員8名と協力スタッフ6名が総力戦で作り上げている。
清水さんは普段はニュース番組を担当していて、他のスタッフもそれぞれに色んな番組を担当しているが、高校野球の間は予定を空けられるようにスケジュールを調整して臨んでいる。
1番こだわっていることは「スタンドにもドラマがある」こと。
コロナ以降、今のところスタンドリポートは立てられていないものの、スタンド取材を担当するスタッフが試合中に駆け回り、選手の親御さんのコメントをもらいに出向き、実況アナウンサーにメモを読んでもらって放送にのせる。
25年もやっているため、東播磨地域ではよく認知されていて、選手や保護者の方々に喜んでいただいている。
BAN-BANの地域貢献に呼応するかのように、東播磨地域の高校野球は年々強くなっており、加古川北と東播磨は甲子園にも出場した。
数年前、甲子園に出場したときの選手が監督になって帰ってきた。
これにはスタッフ一同、感慨もひとしおだった。
その監督さんが、自分が高校生だったときの試合中継の録画を今でも全部持ってくれていることを清水さんから聞き、私も曲がりなりにもいちスタッフとして、本当にうれしく思った。
よく考えてみると、25年の内、なんと20年も携わらせてもらっていることに驚きつつ、BAN-BANがこんなに熱意があって年々進化している素晴らしいケーブルテレビ局であることを改めて知り、惚れ直すような気持ちになった。
大きな地元愛を持って高校野球に向き合っているBAN-BANネットワークスで仕事をさせてもらえていることを誇らしく思います。
これからも地域密着で、まちをめぐり、こころをつなぐ放送を。そして野球中継を。
コメント