年末、映画『THE FIRST SLAM DUNK』を鑑賞した。以下、完全ネタバレでその感想を。
封切り前。
ウチの店のカウンターでみなさんが語らう限りは、「映画を観るのは怖い」という意見が多かった。どちら様も当時週刊少年ジャンプで熱をもって読んでいた世代。己の持つあの素晴らしい『SLAM DUNK』のイメージが壊れることが怖かったのだろう。
が、実際観てみてそんな心配はまるでなかった。
そして、俺が30年前に少しシラけてしまった部分が、見事に回収してもらえていたような。
主要登場人物は、皆その「これまで」についてが語られる。
エース流川楓は中学時代はスタープレイヤー、キャプテンの赤木はこれまでのチーム内での孤独、三井は栄光からの挫折と後悔、主人公桜木花道はヤンキー(家庭環境に多少不幸があったと思わせるシーンがある)。
しかし唯一、過去が描かれていなかったのが今回の主人公、「宮城リョータ」である。
漫画内における宮城リョータの役割というと、「ひょうきん者」「おちゃらけ」くらいのもので、なんなら三井寿というキャラクターを劇内に連れてくるためだけの役割が大きくあった。
しかし俺自身もそうだし、俺の周辺でも「宮城がイチバン好き」という人も多かったように思う。
それは登場人物の中で宮城リョータが唯一「持たざるもの」であったからであろう。
漫画、最後の最後のコマでは主人公桜木が「天才ですから」と厳しいリハビリに臨むというシーンで物語は完結する。
強がっているようにも見えて応援したくなるし、読者からは「お前が言うな!」と笑ってツッコんでもらって、イイ終わり方のようにも見える。
が、俺はここのところがどーしても好きになれなかった。
やんちゃな素人である主人公が、バスケットを通して成長していくというのがこの漫画『スラムダンク』の本線。30年まえはみんなでそれを楽しんで読んでいた。
ただよく考えてもらいたいのは、桜木は「高校入って3ヶ月」で「チームを神奈川県準優勝に導き」、「全国大会で優勝候補を倒す」のだ。これを「天才」と呼ばずに、何と言えと・・・。
「結局は才能のある者の物語のくせに」と、練習しても練習してもまるで野球がうまくならなかった当時の俺としては、最後のシーンで途端に『スラムダンク』に冷めてしまった。
しかし宮城リョータだけはそうではなかった。作中では本当に負けまくった選手だったし、他の選手のように誇れる実績もない。マネージャーの彩子にもずっとフラレ続けており、そのひょうきんさもあいまって、どこか悲しみすらあったキャラクターだった。
メガネ君と呼ばれる補欠の小暮でさえ、本当は個人練習を積んでいる過去が描かれており、そして県予選陵南戦ではその成果で勝利。
メインのキャラクターであるはずのリョータだけが、スピードという才能は少しは表現されてはいたものの、特に深堀りされていない。
それでも、いやだからこそその「何者でもない」感じに当時は共感し惹かれていたように思う。
事前に映画情報は一切排除。全くの「手ぶら」で映画を観に行った。
全然期待はしておらず、ただ周辺からは「何も言えないんだが、とにかく観に行った方がイイ」と言われて映画館に来てみた。
そしたらその宮城リョータが主人公になっているって・・・・。
しかもこの設定はすでに30年前に考えられており、映画が始まってすぐに「だから『宮城』なのか・・・」と鳥肌がたつ。
映画では、リョータとその家族の辛い過去から語られ始める。
不幸な過去だったから、だからわざと「ひょうきん」で「おちゃらけた感じ」にしていたんだろう。リョータは慰めても欲しくもないし、過去に触れられるのはもっと嫌だっただろうから。
30年前のあのシラけた感じが、映画が始まってすぐに溶けていく。
日本アニメーション史上最高だと思われる主人公たちの登場シーンから始まり、最後の無音の展開まで全てが最高。5年に1度でも出会えたら最高の「このまま終わらないでくれ」と思わせてくれる映画だった。
とうぜんみんな漫画の方で試合内容知っているだろうに、最後の最後まで劇場は手に汗にぎる緊張感に包まれていた。みんな息をのんでスクリーンに集中しているのがわかるという、素晴らしい映画体験だった。
もう、ここで十分お腹いっぱい大満足の映画だったのだが。
エピローグ、場所はどうやらアメリカ。
「あぁ、沢北が本当にアメリカに行ったんだな」と漫画には無いシーンが追加されている。たしか流川楓も「俺も行く」って言ってたなぁ。本場アメリカで勝負できるのは、やっぱスーパースタープレイヤー沢北、もしくは流川に違いない。
が、沢北がアメリカで対戦するのは、なんと俺たち「何も持っていない」側の人間代表、宮城リョータ。負け続けたはずのリョータがアメリカにたどり着いているなんて。
ここでもうすっかりバカになってしまっている俺の涙腺が、いよいよ本格的にぶっ壊れる。
まず冷静にみれば、シングルマザーの家庭で、どうやら裕福とは程遠くみえるような高校生リョータの環境の中では、少なく見積もっても年間7~800万円は下らないだろう費用を捻出するのはほぼ不可能。それがどうして、留学できるのか?
ここで、映画と現実がクロスする。
日本からアメリカにバスケット留学、これは本当に実現できるのだ。
『スラムダンク』の作者井上雄彦先生というのは、本当にバスケットボールというものの未来を考えている御仁。
『スラムダンク』で稼いだお金が基金となっており、今この日本には「スラムダンク奨学金制度」というものがある。
家庭環境に困難があろうとも、優秀な選手がそこでバスケットを諦めないでいいようにと、井上雄彦先生が、奨学金を準備してくれているのだ。
父を亡くし、兄を亡くし、故郷からも離れたバスケット少年が、アメリカにバスケット留学する事は、実際に可能なのだ!
なんという優しい世界があったものか・・・。
そして数年前、このアニメ映画の中のシーンが本当に現実化されている。
始まってから16回ほどの奨学金制度だが、なんとついに「スラムダンク奨学金制度」で留学した学生同士が、本当に対戦するというところまでになったのだ!
あのラストシーンは、つまりほぼ実話!すごい!
リョータは自分の活躍で『スラムダンク』という漫画を売り、そこで出来た利益で留学したようなもの。何も持っていないところから始まったはずの少年が、亡くなった兄の夢まで背負い込んでアメリカでバスケットをするまでになった。
感動が波のように押し寄せて止まないじゃないか・・・。本当に観れて幸せだった。
ちなみに、初のスラムダンク奨学生は「沖縄出身のスモールプレイヤー」並里成。
現在もB.LEAGUEで活躍中である。
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