「エマくんもやっぱりオリンピック出たいと思う?」
そう尋ねた私にエマくんは間髪入れずにこう答えた。
「オリンピックにも出たいけど、1番出たいのはエックスゲーム!」
はい、またさっぱり分からないの来たー!
目標とするX Games(エックスゲームズ)とオリンピック
X Games(エックスゲームズ)は、1995年にアメリカで始まった世界最大のアクションスポーツの国際競技大会。
言わばスケボーやBMXのワールドカップだ。
これまで世界12ヵ国で開催されてきたが、今年の4月に初めて日本で行われた。
会場は千葉県のZOZOマリンスタジアム。
これを聞いて、戦前には甲子園球場でも全日本のスキージャンプ大会が開かれたことがあったなと、思わずまた野球から連想してしまった。
取材日はエックスゲームの開催前だったので、エマくんは千葉まで見に行くのを心待ちにしていて、お父さんに「あと何回寝たら行けるん?」と何度も聞いていた。
まだ幼いエマくんにとっては、競技種目になったばかりのオリンピック以上に、スケボーを始めた頃から何度も動画で見ていたエックスゲームの方が馴染みがあり、憧れも大きいようだった。
エマくんが1番憧れているのはアメリカのギャビン・ボッテガー選手。彼はなんとまだ17歳にして世界トップクラスの実力者だ。
そんなすごい選手たちのプレーを日本で見られるなんて、それは楽しみだね。ワクワクしちゃうよね。
日本のスケボー界の現状
ただ、お父さんからすると、エックスゲームを見に行けるのはいいのだが、エマくんが出場できるような国内の大会が、東日本でしか開かれない現状に悩んでいるとのこと。
今のところ、大会を開けるようなパークは規模や設備の関係で、国内では神奈川の鵠沼海浜公園スケートパーク、茨城のムラサキパークかさま、新潟の村上市スケートパークの3つしかない。
そうなるとゴルフと同じで、普段からそのパークで練習している地元の子たちが圧倒的有利になってしまう。
「だから関西でも大会ができるようなパークができればと思ってるんです。」
昨年のオリンピックの影響もあり、お父さんの体感ではスケボーを始めた子は100倍ぐらい増えたという。
「スケボー人口は増えてるんですけど、うちみたいな関西の子や、まして九州の子たちなどは大会場所が遠いので、費用面で出場を断念せざるを得ないケースが出てきてしまう事も心配していますし、ホームやアウェイのない大会が関西でもできればいいのですが。」
関西のスケボーシーンの動き
今、関西のスケボーシーンを盛り上げようと様々な動きが起きてきている。
エマくんの新スポンサーになってくれたBeans Homeという大阪の工務店も、関西のスケボーをする子供たちをバックアップしたいと考え活動してくれている。
新スポンサーは大阪の工務店
Beans Homeを運営するBeans companyの方にお話を伺ったところ、元々息子さんがエマくんと一緒にスケボーをしていたそうで「子供にスケボーをさせてみて、こんなにもお金がかかるのかと驚きました。実力があっても、そういった理由で辞めてしまう子もいます。昨年のオリンピックで日本人選手が3つも金メダルを獲りましたが、全体的な環境の改善にまでは繋がりませんでした。うちのようなスケボーに関係の無い企業が手を挙げることで、他にもサポートしてくださる企業が出てくるきっかけになればと思い、この年齢では考えられないぐらい上手でシンボリックな存在であるエマくんをサポートしたいとお父さんに持ちかけました。」とのこと。
Beans Homeでは今季、エマくんを始め4人の子供たちのサポートをしている。
競技としてはまだまだこれから発展途上であるスケボーには、こうした様々な問題が立ちはだかっていることを、少しでも多くの人に知ってもらえればと、お父さんや関係者の皆さんは切実に考えている。
「親としてはサッカー習わせるのと同じ感覚で、習い事として、競技として、スケボーをさせているので、親目線で言うと大会やコンテストなど成果が見られる場が欲しいと思っています。」
今の時代にマッチしたスケボーの良さ
スケボーは競技の側面ももちろんあるが、元々はアメリカのストリートが発祥だからか、勝ち負けよりもスケーター同士が初心者からプロまで互いにリスペクトし合い、戦術を隠すことなく皆がそれぞれ自分の滑りをインスタやyoutubeにがんがんUPする。
そして誰かが新しい技を決めたら、「イェーーッ!やったー!スゴいスゴい!」と盛り上がり讃えあう。
「オリンピックとかで日本人が金メダル獲ったら日本中が盛り上がるじゃないですか。あれと同じことがスケボーの世界では、日々どこかで起きてるんです。」
エマくんの弟でまだ4歳のヒイロくんも、1つ技を覚える度に、年上のめっちゃ上手な子たちも心から喜んでくれて「おぉーっ!できたやん!」と盛り上がる。
このヒイロくんも、きっとお兄ちゃんに負けないスゴい選手になる予感がぷんぷんする。
エマくんも普段はgスケートパークで個人的に練習しているが、そこにいる年上の子たちが惜しみなく教えてくれるし、全員が仲間であり助け合う気持ちを持っている。
スケボーのその精神って、今の時代にものすごくマッチしている気がする。
写真左 スケボー仲間の林 佳樹くん(小6)
子供がスケボーをすることのメリット
さらにお父さんが、子供にスケボーをさせるメリットを教えてくれた。
「完全に個人競技なので、普通の習い事と違っていつ行ってもいつ帰ってもいいので、それぞれの家庭の都合で臨機応変に動けるんです。それに仲間はできますが団体で動くようなこともないので、人間関係のいざこざもない所が良いなと思います。」
東京オリンピックでの日本人選手の活躍のおかげで一躍脚光を浴びたスケートボードが、今後さらに盛り上がっていくのは間違いない。関西や西日本のどこかに大きなパークができるのも時間の問題のような気がする。
もちろん、その為に影で尽力されている方が沢山おられることも忘れてはいけない。
最後にエマくんに将来の夢を聞いてみると「ファミマでハバネロチキン揚げる人か、スケボーの先生になりたい!」と、全く期待を裏切らない無邪気さ。
「スケボー上手くなったらうれしい!って思うから、自分が教えてもらったことを子供たちに教えてあげたい!自分もそうしてきてもらったから、年下の子たちにも同じようにしてあげたい!」
スケボー界の人たちの優しさと温もりとフレンドリーさが、とてもよく伝わる言葉だと思った。
エマくんがエックスゲームやオリンピックに出場する日が、そして子供たちにスケボーを教える姿が、今からもう楽しみでならない。
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