私はよく知らない人に道を聞かれる。
その際にはいつも心尽くしのご案内をするタイプだ。
説明しても相手が少し不安そうな様子なら、時間が許す限り目的地まで同伴させてもらう主義だ。
自分でも見ず知らずの人になぜここまでするのか分からなかったが、このことを書こうと思って色々考えを巡らせていたら、その理由が判明した。
私は20代前半の頃、大阪の百貨店でエレベーターガールをしていた。
エレベーターガールの仕事で最も重要とされ、研修でもみっちり仕込まれるのが、この「ご案内」だった。
大都会の大阪には道に迷える子羊様たちがうようよいらっしゃり、お客様に道を尋ねられたら「必ず」「確実に」「丁寧に」説明して差し上げろ!と教え込まれた。
先輩に「なんぼ説明してもご理解頂けない場合はどうしたらいいんですか?」と素朴な疑問をぶつけたら「ほんだら現地までお送りして差し上げんかいアホンダラ!」とバチギレされた。
先輩方はみんなお客様に対してはエレガントに振る舞う美女揃いだったが、中身はめっちゃ気合いの入った体育会系で、野球部とあまり変わらない見事な縦社会だった。(今は多分違うと思うけど、当時は)
エレベーター乗務中はさすがに現地までお送りはできないが、交代制でエレベーターの前でお客様を誘導する任務もあり、そのときは他のスタッフに断りを入れて、口で説明してもまだ不安そうなお客様は現地までお送りしていた。
私はその時間がすごく好きで、ご案内しながら「遠方から久々に大阪に出てきたの」という老婦人の身の上話を聞いたりしていたことは、今でも心に残っている。
どうやら、その名残りが今もクッキリと私の中に残っているのだ。
よく道を聞かれるのも、私から何かそんなオーラが出ているのかもしれない。
私に道を尋ねてくるのはなぜか9割が女性で、やはり年配の方が多い。
若い観光客のカップルや、外国人にもよく尋ねられる。
ほんとに不思議なんだけれど、旅先でもよく聞かれる。
コロナ前に沖縄の那覇で裏路地を1人で探検していたら、外国人カップルに道を尋ねられたことがある。
英語は全然分からないけど場数だけは踏んできているので、自分も探検中の身にも関わらず落ち着き払って「はいはい、オッケーオッケー!」と安請け合い。
その外国人カップルは「壺屋やちむん通り」に行きたがってることがなんとなく分かってきた。私たちの現在地は農連市場付近。ここからならやちむん通りは目と鼻の先だし現地案内をする間でもなかった。
「ディスウェイ、ゴーストレート。そしたら目の前にビッグシーサー!あれあれ!ザッツザッツ!オウケイ?ベリービッグ!シーサーイズレオ!ライオン?なんかわからんけどとにかくベリービッグ!すぐわかる!そしたらその周り一帯に〜、ビッグシーサーアラウンド!メニーメニー!メニーショップよ!オウケイ?」
とにかく笑顔と身振り手振りでまくしたてる。
関西ローカル番組にロザンが道行く人に道案内をする人気コーナーがあり、ロザンの菅ちゃんが海外の人にテキトーな英語で道案内するときの、まさに私がやってるような英語は「菅ちゃん英語」と呼ばれて本まで出ている。
私はこのコーナーが始まる遥か昔のエレベーターガール時代から、恥ずかしげもなくずっと菅ちゃん英語と同じようなものを駆使してきたので、このコーナーが始まった時は心底うれしかった。
それ以来、外国人に道を聞かれると「待ってました!」とばかりに俄然張り切ってしまう。
ちなみに、やちむん通りのビッグシーサーはその場所から遠くにほんのり見えるほど近かったので、外国人カップルもすぐに私の言葉の意味を理解してくれて「ベリーナイス!サンキューソーマッチ!」と私の背中を叩きながらとても喜んでくれたので「ユアウエルカム!」と握手を交わし、最高にダサく締めくくった。
百貨店時代の先輩方、本当にありがとうございます!
あのころリアルに毎日泣きながら取った杵柄は、今も立派に活きています笑!
ちなみに、私が採用された時は人材不足だった為、私に限っては外見は重視されず「面接の受け応えがハキハキしてたから」という理由で合格したこともお伝えしておく。
これからもハキハキとしたテキトー英語に磨きをかけていきたいので、どんどん私に道を尋ねてほしいし、2025年の大阪万博のときは、外国人に道を聞かれたい下心満載で、ムダに大阪の街をウロウロしに行こうかと本気で検討している。
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