編集長コラム 第22回「もう食べられない中央ベーカリーの豚まん」

編集長

2週連続で兵庫区ネタになって恐縮ですが、去る9月14日を持って長年地域に激しく愛されてきた「中央の豚まん」が終売となった。これは平野界隈の人々を震撼させ、噂は瞬く間に駆け巡った。

私にこのことを告げてくれたのは1番身近な兵庫高校出身の友人で、普段からその賢さを周りに重宝がられ、このように地域の情報屋としても暗躍している。

「中央ベーカリーが豚まんの販売を終了するそうです・・」

こんな沈痛な文面で伝えられた一報に私も揺るがされ、すぐさま中央ベーカリーに電話してショックのあまり20個も予約注文してしまった。

あとで聞いた話では、別の地元民は子供も含め家族総出で「豚まん事件や!」と大騒ぎになり同じようにすぐ予約したというほど、みんな大好きだった中央の豚まん。

9月13日、20個の豚まんを受け取りに中央ベーカリーへ。平野の交差点の北西にある正式名称「ラ・セントレ 中央ベーカリー」は、黄色い外観が目を引く平野のランドマーク的存在。

ご覧のように、街のパン屋と呼ぶにはちょっと小洒落ております。

パン屋さんが「豚まん」をウリにするという一風変わった試みや、豚まん終売に至った経緯を同店代表の前田知三さんに直接伺うことができた。

「元々は戦争中にこの近くに配給用の食糧営団があってね、うちの先代がそこでパン作りのノウハウ持ってたことで戦後まもなくの昭和23年からパン屋始めたんです。でも当時は近所にパン屋がようけあったから、なんか特徴を出さなあかんいうことで昭和33年から豚まんを始めたんです」

パンと同じ酵母を使って作られる豚まんは、ふわっふわでもっちもちの生地が他の有名豚まん店のものとも一線を画していて、具もひき肉と玉ねぎを優しく味付けした素朴な味わいで人気になった。

「この度、販売終了になった理由は職人さんが高齢でね、もう80歳になられるいうことで引退されることになったんです。でも後を継いでくれる人がいなくてね。豚まんの販売は60年以上続いてきたのでとても残念ですが。今の職人さんは高校卒業してすぐからずっとうちで働いてくれた人です」

小さい頃から折にふれて食べてきたここの豚まんは、なんとたった1人の職人さんの手で守られてきた味だったことを知り、胸に迫るものがあった。

地方発送の依頼も多く、冬場になると毎年送っていたお客さんが沢山あったという。

「豚まんは季節商品やからね、やっぱり冬場になったらよぉ売れて、多いときは地方発送分も合わせて1日800個ほどになることもありました」

そう、寒くなってくるとこの辺の人らはむくむくと「中央ベーカリーの豚まん食べたい!」モードになり、友達の家でも自分ちでも、よくおやつに食べていた。
遠方の親戚や知り合いに地方発送を依頼する人まで殺到してたというのも頷ける。

「赤穂に住んでる60年来の常連さんにも毎年送ってたんやけど、最後やからいうことで、ちょうど今日わざわざお店まで来てくれてね」

この愛されっぷり。
かく言う私も、終売ショックで予約した20個の豚まんを5個ずつ包んでもらって、お会計のとき店員さんに涙ながらに今までの感謝と寂しさを伝えた後、このニュースを知らずに危うく食べ損ねるところだった地元の友人たちにママチャリで配り回ったら自分とこの分が残らず、さらに追加で10個注文したほどだ。

5個入りの豚まんを「情報屋」の自宅にも持って行ったら大喜びしながらも「もう豚まん配達人やんか!」と笑われた。

最終日の9月14日に追加の10個を2個ずつに包んでもらい、今度は我が家の分も確保した上で同じマンションの仲良くしてもらってる人に配ろうと思っていたら、ちょうど私の直後にパンのお会計をしていたお客さんがいつもの感覚で「あと、豚まん2つください」と言って、お店の人に「すいません、豚まんは今日で販売終了で予約の分だけでもう終わってしまったんです・・」と申し訳なさそうに告げられショックを受けている現場を目撃した。

豚まん配達人としては居ても立ってもいられず「良かったらどうぞ!」と1つ差し出すと、そのお客さんは遠慮されながらも最終的には私の押しに負ける形で受け取ってくれた。
「お金払います~!」と言われ、確かに見ず知らずの人間に豚まんをタダでもらうのはちょっと気を遣わせるかなと思い、2個分280円をありがたく頂戴した。
帰宅後、同じマンションの人にも無事渡し、これだけ色んな人とラスト豚まんを分かち合えたことで、ショックもようやく和らいだ。

近所の人に「豚まん事件」と呼ばれるほどの衝撃を与え、私のように終売ショックで大量予約する人が続出したというほど愛されてきただけに、残念に思っているのはお店の人も同じ。
今、彗星のごとく後継者に名乗りを上げれば兵庫区平野界隈で英雄と呼ばれるかもしれません。

もう食べられないラスト豚まんを早速1つ頬張ると、昔と何ら変わらない素朴な美味しさが口いっぱいに広がった。
ちなみに私は関西人らしく、ウスターソースとからしでいただく正統派だ。

尚、豚まんの販売は終了しますが、パン屋さんと併設のカフェは9月15日からの改装工事が終わり次第、引き続き営業されますのでご安心ください。
リニューアル後はガラッと雰囲気が変わるそうなので楽しみです♪

次回コラム
「ダボ」と「きはった」

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「神戸の好きな町名~兵庫区編~」

編集長

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神戸を愛し神戸に愛され続けて38年😆👍(つまり38歳)人と喋ることと文章書くことが好き過ぎて、うっかり編集長になってしまったタイプです。神戸及び兵庫県の『人』をクローズアップしたインタビュー記事をメインに、神戸っ子たちのコラムも充実♫ 地元の人にも神戸以外の人にも、軽〜く友達感覚で読んでもらえたらうれしいです😊💓

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